以前実家に住んでいた時のこと。
我が家は僕と母と祖母の三人暮らしでしたが、鍵は僕と母の二人しか持っていませんでした。というのも、祖母は外出することは殆どなくて、外出時は必ず僕か母が一緒だった為、わざわざ合鍵を作る必要もないかという話になっていたからです。
ある日僕は仕事に出かけ、母はパートに出かけ、家では祖母が家事をしたり夕飯を作ったりとのんびり過ごしていました。
普段、食材などの買い物は母の役割で、祖母が買い物に行くこと自体まずありません。
しかし、その日はなぜか一人で出かけてしまいます。足の悪い祖母は、大人の足で徒歩2分程で行ける近所のスーパーに、10分歩いて向かいます。目当ての品を買って帰るまで、家を出てから30分が経っていました。
しかし、玄関ドアのノブを回してもドアは開きません。祖母は認知症ではないので、鍵を持っていないのだから自分で鍵をかけて出ていくはずがありません。
誰か帰ってきたんだなと理解した祖母はインターフォンを鳴らしますが誰も出ない。ドアをノックするが音沙汰なし。「おーい」と呼んでも反応はなく、暫くドアの前で座り込んだとのこと。
どうやら、パートから帰宅した母は、祖母が出かけているのに気づかず中から鍵をかけてそのまま昼寝をしていたようで、インターフォンにも全く気付かなかったと後で話していました。
祖母の実際の時間は分かりませんが、祖母の体感的に数十分が経った頃、「ベランダから入ろう」と決意します。アパートの一階だったので、僕は時々ベランダから入っていましたが、90歳近い祖母がまさか柵を跨げるわけもなく、下手をすれば命の危険すらあるのですが、彼女はベランダに向かい柵に手を掛けます。
よいしょと足を上げようとした時、足を攣ってしまい、そのままバタンと倒れます。
数時間後に僕が帰宅すると、祖母は柵の前に倒れていました。幸い頭を打ったりもなく、怪我は擦り傷程度で済みました。
それ以来祖母にも鍵を持たせることになりましたが、半年ほどで認知症が発覚し、今はまた外出することもなくなったので、鍵を返してもらいました。
祖母の行動力というか、バイタリティみたいなものにも驚きましたが、やはり何かあった時の為にも鍵は家族全員が持つべきだと学びました。